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きりのなか
霧の中
豊島 与志雄
――「正夫の世界」――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,920 字 · 40 页
」
「君の忠告なんか駄目さ。」
「なぜだい。」
「お父さんは何かほしかったんだと思うよ。」
「何がさ。」
「それが、僕にもよく分らないけれど……。」
「どうせつまらないものだろう。」
「だけど、へんなことがあるよ。」
「また、大昔の話か、お化の話かい。」
「ちがう……本当にあったことだよ。」
学校から、正夫は遠足に行ったことがある。同級の者だけそろって、高尾山に登った。山の上には、いろんな物を売ってるなかに、竹細工の笛がたくさんあった。たいていの者がそれを買った。神社に詣って、裏山で弁当をたべて、自由に遊べる時間になると、あちらでもこちらでも、笛を吹きならした。木立の中にはいっていって、小鳥を呼びよせるんだと、夢中になってる者たちもあった。その一人が、足をふみ外して、急な崖からころがり落ちた。ちょっとした木の茂みに隠されてる、穽みたいな崖だった。その中にすぽっと落ちこんだので、近くの者たちはびっくりした。それから騒ぎになった。先生も飛んできた。幸に、崖はそう高くなかった。廻り途をして、崖下に出ると、落ちた生徒はそこに倒れたまま、きょとんとしている。肱と膝とを少し擦りむいただけだ。