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あおバスのおんな
青バスの女
辰野 九紫
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,918 字 · 22 页
「両替屋じゃないんですからね。気をつけて下さい」と、早口で大した権幕で、僕が心づくしの二銭など眼中にないらしく、ちゃんと四十三銭の釣銭を出すではないか。そこで僕はステップから下りながら、憤然として、
「悪いと思うからこそ下手に出てるんじゃないか。間抜奴」と柄にもなくタンカを切って、去り行く青バスの尻番号を忘れないように手帳に記けた。僕が無神経に五十銭玉で四十三銭の釣銭を強要したなら、一言もない。然し、僕自身では常々人一倍、これに苦労しているにも拘らず、こんな雑言を浴せかけられたのだから、口惜しかろうじゃないか。僕は相手が女だからとて容赦は出来ぬ。彼女は恐らく僕のみにそうするのではあるまい。斯かる不親切な車掌は大に膺懲せざるべからずと、例に依って公憤を発した。その夜直に筆を執って、事の顛末、日時、車体番号等を明記して女車掌大西冬子の糾弾状を、青バス株式会社女車掌監督係長宛に発送した。尤もこれは長文だから三銭奮発した。
諸君は、よくも又、いつの間に、彼女の姓名を僕が承知したか、不審に思われるであろう。そこで言わねば話の順序がつかぬことになる。言えば憤慨居士の名誉にも関しようというジレンマに陥るが、実は最初、その青バスに乗った瞬間、女車掌の中では有数のシャンだなと、見るともなく運転手と並べて掲げてある首部の名札