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せいしゅん
青春
宮本 百合子
「婦人朝日」1940(昭和15)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,799 字 · 16 页
初めの結婚をしたのは二十一歳で、五六年その生活がつづいた。ずっと年上であった相手のひとが、もう生活にくたびれかけていて、結婚生活ではひたすら安穏に、平和に順調な年から年へ日々がくりかえされることを望む心持であることがどうしても納得ゆかなかった。結婚生活こそ出発と思い、そのためにこそ貧窮もその身で知っている人と結婚したのに、一つ屋根の下に暮して見れば、自分は翔びたくて日夜もがいて羽搏くし、そのひとは翔ぼうともせず小さい日向で羽交いの間に首を入れるばかりか、私の脚にいつの間にかついている短い鎖を優しく鳴らして、こんな鎖にも、いまに馴れるよ、と慰めてくれる。馴れる! 何という怖い言葉に響いたろう。馴れる! 人間はそんなにどんな生活にも馴れるものなのだろうか。私はいやだ。馴れるのはいやだ。
それからの数年は、二人にとって全く苦しい格闘の歳月であった。相手のひとにとっては、私がそうやって書く字の形までまるきり変ってしまったほど、もがき苦しむわけがどうしても本質で理解されないのだし、私としては自分の心のうちにあるその人への愛と憎みとの間で揉みぬかれる始末であった。