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あおだけ

青竹

山本 周五郎

「ますらお」大陸講談社、1942(昭和17)年9月

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 14,622 字 · 29 页

青空文庫

五

五百石加増がとりやめになった、そのつぐないの意味もあったのだが、それを察したのであろう、源七郎はどうしても受けなかった、そしてしずかに退出していった。

恩賞は沙汰なしになったけれどもかれの名はにわかに佐和山城の内外にひろまった。これまで諸事ひかえめに、あまり口数もきかず、なるべく人のうしろに立つという風だったのが、一番首の功名を隠していたという事実がわかったので、こんどは逆にひどくそれが誇張した噂となって喧伝された、かれはほとんど英雄にさえなった。もちろんそれは世間の評判がそうなっただけで、かれ自身にはなんの変りもなかった、依然として無口な、ひかえめな、印象の鈍い存在だったのである。

五

御前評議があってからしばらくして、竹岡兵庫のもとから源七郎に招待の使が来た。――粗飯を呈したいからぜひ。という口上であった、源七郎は承知のむねを答え、約束の刻限にその屋敷をおとずれた。曲輪うちにある兵庫の屋敷は庭もひろく樹立も鬱蒼としていて、源七郎の通された客間からはその黒ずんだ緑の梢ごしに城の天守がよく見えた、そのとき昏れてゆく残照をあびたその天守の屋根に、白鷺が一羽ひっそりと翼をやすめているのを、源七郎は名ある絵巻でも見るような気持で眺めていた。