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ひじょうのあい

非情の愛

豊島 与志雄

「中央公論」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页

青空文庫

二人はじっと見合った後、殆んど無表情のまま、手を差し伸して、固く握手した。

後で私の知り得たところでは、彼等は、或る文化的会合で顔を合せたことがあった。二人ともあまり饒舌らなかったが、時に意見を吐露すると、それがふしぎなほど合致して、遂には二人だけの対談のような調子で口を利いたらしい。それでも二人は、誰からも互いに紹介されることなく、名前も知らずに別れたらしい。但し、その時の話題や彼等の意見がどういうものだったかは、明かでないし、茲に詮索する必要もなかろう。それ以外の彼等の交渉については、私はなにも知らない。そして私のちっぽけな疑惑などは、その後の彼等の親しい態度のなかに解消してしまったし、焼酎や紹興酒や川蟹のなかに飛散してしまった。

「五郎」は夕刻から宵にかけて相当に客があるので、それを避けてか、或は他にわけがあってか、秦や波多野は、多くはまだ日差しの明るいうちにやって来て、楽しげに川蟹をつついた。互いに電話で呼びだすこともあった。「今日は蟹があるよ。」というだけですべてが通じた。

酔ってくると、秦は上衣のポケットから一掴みの銀杏の葉を取り出すことがあった。