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めんせきのあつみ

面積の厚み

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十五巻(補遺)」河出書房、1953(昭和28)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,111 字 · 15 页

青空文庫

縦と横とをかければ面積が出る。と云うそれだけのうちで、何を訊ねようにも種が無いので、先生が後を向ききりになると一緒に、今までひっそり閑としていた教室中には、急に小蜂のうなるような囁(ささやき)や、せわしい身じろぎの音が、一しきりサワサワ、サワサワと鳴り渡った。

一番後列の中頃に座っていた、肥ってお出額(でこ)の女の子も、皆について一息ホッとしたように両手を机の上に休ませながら、彼方向きの先生の尖った髱(たぼ)の先が、薄赤くホヤホヤにほつれて、無理に背のびをしたり、手を上げたりする度に小さく震えるのを、ぼんやりと眺めていた。

そして、考えるともなく面積のことを思っていると、フト何故縦と横とをかけると面積が出、その面積と云うものには厚みが無いと定まっているのかが、非常に不思議に思われて来た。

縦と横とをかけると面積が出ます。

そして、面積には、どんな時にでも厚みはないものです。

先に教えられた時にも、一人ずつ順繰りに繰返して云った時にも、不思議どころか、あんなにも明瞭に解り切っていたその根本が、今急に、あかの他人を見るよりもっともっと親しみのない、殆ど奇怪なことのように感じられて来たのである。