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めんせきのあつみ
面積の厚み
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十五巻(補遺)」河出書房、1953(昭和28)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,111 字 · 15 页
が、自分の知っている限りの面積には、いつでも、いつでも厚みがきっとついていたと云う「彼女自身の経験」を否定することは、どうしても出来なかった。
どんなに薄い雁皮紙(がんぴし)でも、お粥(かゆ)の上皮でも皆厚みは持っている。
自分の見たものの総てには、厚みがある。
けれども、先生の言によれば面積に厚みは、「無いもの」なのである。
何方かが間違って世の中の物を見ているのだ。彼女は大変不安になって来た。
若し、絶対に有り得べからざるものを、自分だけが見ていたとすれば、今までの知っていたことの半分以上は、皆滅茶滅茶になってしまう。
人並みの眼さえ持たない人間だった自分が、間違いだらけだと分った知識と一緒に取り遺されることを想像すると、彼女は怖くなった。何だか、居ても立ってもいられないような心持になって、大急ぎで出来るだけ高く手をあげた彼女は、とうとう、先生の振向いてくださるのを待ちかねて、椅子をガタガタ云わせて立ちあがりながら、
「先生!」
と声をかけた。
丁度その時、後向きのままで白墨(はくぼく)の先を減らしながら、何か別の考えに気を取られていたらしい先生は、少し周章(あわ)てて彼女の方を向いた。