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おんがくかいのめいしん

音楽と生活 兼常清佐随筆集

兼常 清佐

兼常清佐『音楽と生活 兼常清佐随筆集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:音楽界の迷信、勝太郎、久野女史をいたむ、ニッポン音楽、流行唄、レコード蒐集。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,475 字 · 61 页

青空文庫

流行唄

1

「流行唄というのは一体どういうものでしょう。」――ギンザ或春の夜、剽軽な雑誌記者が私にそんなことを聞いた。

難問である。一口にそれに答える事はむずかしい。それに答えるにはギンザを四丁目からシンバシまでくらい歩かなければならない。ただ流行唄はどんなものでないかという事なら、私には五歩行く間に明瞭に答えられる。――流行唄はラジオの国民歌謡のようなものではない。

流行唄には気分と感情がある。やさしさがある。なつかしさがある。暖さがある。捉われないものがある。強いられないものがある。二十四時間の周期で必ず私共の耳にはいって来る規律的な、計画的な音楽などは、どうも流行唄という事からは縁が遠い。また私も国民歌謡が非常に流行しているという話を聞いた事がない。

シュトルムは『湖畔』の中にこう書いている。――「流行唄は作られるものではない。空から降って来て、陽炎のように地上を飛びまわる。彼処でも此処でも至る処で人々に唄われる。我々の事業も煩悶も流行唄の中に唄われている。結局我々が総がかりで流行唄を作り上げるようなものである。」

流行唄というのは正にこのようなものである。