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すまでらふきん

須磨寺附近

山本 周五郎

「文藝春秋」1926(大正15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页

青空文庫

「清水さん下宿をなさい」

と云い出した。清三は呆れて康子の顔を見た、康子は眉ひとつ動かさずに清三を見返していた。

「須磨寺のすぐ前に佳い家を見つけておきましたよ」

「そうですか」

清三は糸に操られて手足を振る泥人形のような自分を見た、何か不快なものが胸先にこみあげてくるようだった、いままで耐えていた種々な感情が頻りに言葉を誘った、清三はとうていそこに坐っていることができなくなって、箸を置くと黙って立上った。

「清水さん」

康子の声を背に受けながら、清三は階段を上った、悲劇的な感傷が頭の中で火のように閃き回る、叫び出すかも知れないと自ら清三は自分の口を両手で塞いで、部屋の中を歩き回った、誇張した言葉が口の中へ後から後から溢れてきた。

階下から上って来る跫音を聞いて、清三は電燈を消した。上り詰めた跫音は入口の襖の際で止まったが清三は眼を瞑って窓際に跼んだ、泪が出てしかたがなかった。

窓から来る宵明りで清三の姿を見出した康子は、素早く寄って来て、清三の頸に腕をかけた、清三はその腕を払い除けようと思った、が反対に躯をねじ向けて、康子を抱いた。

「あ――」

康子の短い叫びが清三の唇に触れた、二人の唇はしっかりと合った。