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かぜにのってくるコロポックル
風に乗って来るコロポックル
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页
それを見付けた黒が、唸る。
すると、豊坊がワイワイ云いながら、火の付いた枝を黒の鼻先へ押付ける。と、
キャン! と叫んで横飛びに逃げた様子がおかしいと云って、豊坊が転げ廻って笑う。
何がそんなにおかしいか、馬鹿奴、と云いながらイレンカトムの笑いも、ハッハッハッとこぼれ出す。
夜でも昼でも、年寄りの傍には、きっと小さい豊が馳けずり廻っていないことはない。
広い畑に出ているときでも、その附近にはきっと子供と黒がお供をしている。
日が出て、日が沈んで、日が出て日が沈んで、豊坊の身丈はだんだんと延びて行った。
大きくなるに連れて、クサもなおり、艶のいい髪の毛と、大きな美くしい眼と、健康な銅色の皮膚を持った豊坊に対して、イレンカトムは、完く目がなかった。
自分の淋しかった生活の反動と、生れ付きの子煩悩(こぼんのう)とで、女よりももっと女らしい可愛がりかたをするイレンカトムは、豊に対してはほとんど絶対服従である。
強情なのも、意気地ないよりは頼もしいし、口の達者なのも、暴れなのも、何となく、普(なみ)の一生を送る者ではないように思われて楽しい。
彼がそう思っている事を、いつの間にか、本能的に覚っている豊は、イレンカトムに対しては何の憚(はばか)る処もない。