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かぜにのってくるコロポックル
風に乗って来るコロポックル
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页
彼はもう、すっかりコロポックルにきめて、山本さんにもそのことを話した。
どうも何にしろ、男や女の沢山の声が、あっちこっち暴れながら、絶間なく喋るのだから煩(うるさ)くて堪らない。一体、私の親父の時代のコロポックルも、あんなに手に負えないものだったろうか、などと云うイレンカトムの話を聞いた人達は、始めのうち誰も本気にしなかった。
けれども、だんだん彼がその声を相手に大論判をしている処へ行あったりして、彼の云うことは信じられると共に、頭の調子の狂ってしまったのも認められない訳には行かぬ。部落では、イレンカトムという名の代りに、皆コロポックルの親父と云うように成った。
勿論、頭が悪いのは事実である。
けれども、彼は自分にコロポックルが現われる――訳の分らない声を聞き、言葉を聞くということは――決して普通なこととは思っていなかった。どうかして、そんなものから逃れたいと思わないことはない。
それだから、医者にも通い、薬も飲んだ。彼の心持は、死んだって、気が狂ったって俺のことはかまわないが、どうぞ豊に会って、渡す物を渡してからでありたかったのである。
豊とちょっとでも知己(ちかづき)の者に会う毎に豊からの便りはないかと訊く。