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ふうちそう
風知草
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页
――お待ちしておりますわ」
「何にも大してむずかしい集りじゃないらしいことよ。かまわないじゃないの、いらっしゃいよ」
ひろ子は、きょうの女のひと達の集りは、これから何か仕事をしてゆく人々の顔あわせのような意味のものとして、重吉から伝えられていた。
「――石田さんでしょう?」
赤ちゃんおぶっている若いひとと話していた一人がひろ子によって来た。
「もう眼はよくおなりになったんですか」
ひろ子が熱射病で一時視力を失っていたことを知っていて、きいてくれる人があり、又逆にひろ子の方から、
「まあ、来ていたの」
と、足早によってゆく若い人々もあった。
服装がばらばらなとおり、めいめいの生活もめいめいの小道の上に営まれて来ているのだけれども、きょうは、そのめいめいが、どこかでつかまっていて離さなかった一本の綱を、公然と手繰りあってここに顔を合わせた、そういう、一種のつつましさと心はずみの混った雰囲気が材木置場のまわり、婦人たちの間にただよっていた。何かのはじまりという期待と、同時に見当のつかなさもその顔々にあって、それは、玄関口の敷居や階段につけられた土足のあとの一つ一つがまだ目新しい自立会の生活全体の新しさと、全く調和している。