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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

実に人間らしい情理が一つになったものだわ――そうでしょう?」

重吉の床のわきで羽織のほころびをつくろいながら、ひろ子はそんなことを熱心に話した。もう重吉は、つぎは俺がしてやると云わず、よみかけの書物を枕のわきに伏せながら、仰向きにねていた。

七

十日ほど重吉が引こもっていたうちに、丘と丘の間にある自立会に向って、四方から流れよって来ていた力が、渦になって、そろそろと仕事の中心を、市内へ押し移しはじめた。

ある朝、出がけに、重吉はひろ子に一枚の紙きれをわたした。

「こんど事務所がそこになるんだよ、きょう、昼ごろ、弁当とどけて貰えるだろうか」

「この新しい方へ?」

「ああ」

「いいわ」

紙きれには鉛筆であっさり地図がかかれていた。元電気熔接学校というところが赤旗編輯局と示されている。

「この地図頂いておいていいの? あなたは大丈夫?」

「大丈夫だ。代々木の駅からすぐだよ、二本目の道を来ると、左側だ」

時間をはからって、ひろ子は弁当包みをもって代々木駅に降りた。ごくたまに乗換のとき、しかもひろ子の記憶では、のりまちがえて間誤付きながら乗りかえるようなとき、二三度のぼりおりしただけの代々木駅の前に立って、地図のいう二本めの道をさがしたが、はっきり見当がつかなかった。