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かぜたちぬ

風立ちぬ

堀 辰雄

序曲、風立ちぬ「改造」1936(昭和11)年12月号、冬「文藝春秋」1937(昭和12)年1月号、春「新女苑」1937(昭和12)年4月号、死のかげの谷「新潮」1938(昭和13)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,998 字 · 108 页

青空文庫

「ここはどうもあれの身体には向かないのではないだろうか? もう半年以上にもなるのだから、もうすこし良くなって居そうなものだが……」

「さあ、今年の夏は何処も気候が悪かったのではないでしょうか? それにこういう山の療養所なんぞは冬がいいのだと云いますが……」

「それは冬まで辛抱して居られればいいのかも知れんが……しかしあれには冬まで我慢できまい……」

「しかし自分では冬も居る気でいるようですよ」私はこういう山の孤独がどんなに私達の幸福を育んでいて呉れるかと云うことを、どうしたら父に理解させられるだろうかともどかしがりながら、しかしそういう私達のために父の払っている犠牲のことを思えば何んともそれを言い出しかねて、私達のちぐはぐな対話を続けていた。「まあ、折角山へ来たのですから、居られるだけ居て見るようになさいませんか?」

「……だが、あなたも冬迄一緒に居て下されるのか?」

「ええ、勿論居ますとも」

「それはあなたには本当にすまんな。……だが、あなたは、いま仕事はして居られるのか?」

「いいえ……」

「しかし、あなたも病人にばかり構って居らずに、仕事も少しはなさらなければいけないね」