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ぐるめにおくる
食魔に贈る
岡本 かの子
「中央公論」1932(昭和7)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,619 字 · 20 页
蝸牛料理
Quick! Quick! と鼻にかかる声で給仕をせき立てる声がすでに同客に迷惑だった。その上この家の名物家鴨のオレンジ料理に添えて飲むものに彼等はチョコレートを誂えた。この料理に調和する飲ものとしてはどう考えてもブルガンディかただの水のほかはないのだ。アメリカ客の卓の真向きに一人の老フランス人が食べていた。彼はこのときまでは我慢していたらしかったが、チョコレートの声を聴いてとうとう居堪れなくなった。急いで給仕を呼んで彼は向うの離れた卓へ移って行った。
蝸牛料理
蝸牛は町の中でも売って居る。殻の口に青味の混ったパテを詰められ、生海丹や海老の隣に並んでいる。それは巴里を粋にも野蛮にも見せる。
巴里名料理店の一つ「蝸牛」の軒にはつくりものの大蝸牛がほこりにまみれて二疋、左右へ角を振り分けている。入って行く床には程よく湿ったオガ屑が撒いてあって柔かく靴底にきしむ。紅薔薇色の壁寄椅子、四面の壁鏡、螺旋形の梯子段――もし蝸牛に踊子があってその派手で古びた殻をマントのように脱ぎ捨てたとしたらそれはこの小店だ。
遊び女を二人連れた下町風の伊達者が通常「詩人の隅」