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ぐるめにおくる

食魔に贈る

岡本 かの子

「中央公論」1932(昭和7)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,619 字 · 20 页

青空文庫

Foyot

鰻も捨てられた、独活も捨てられた――そして「巴里人のアンショア」の名で一つの前菜が新しく生れた。

田舎の景色の中では殊に巴里人の好みがはっきり感じられないといって、老翁は故郷の料理研究所から臨時にラルュウの料理場まで出て来たのだった。

「巴里のアンショア」の最初の一皿は、ほんの端だけ老翁に味われあとはゴミ桶へ捨てられた。老翁はその晩の最終でさっさと故郷の田舎へ帰って行った。

「巴里は年寄の舌には強すぎる」

老料理人ニニヨンはこういう口の利き方をする。

Foyot

セーヌの左岸、いわゆる川向うには名料理店は少ない。フォワイヨは僅に其処に在るものの一つだ。この店は右側のラルュウと対立していつも食通の間に問題にされる程の店だ。前者を下院好みの料理とすればこれは上院好みの料理というのが定評である。

事実、この店はフランスの上院、ルュクサンブルグ宮の正門に道を距てた前にある。ソウルノン街三十三番地。そして上院議員の最も愛護している店だ。フランス政治家にはブリアン始め食道楽が多い。彼等はいう、「料理の舌を持つものは政治の舌を持つ」

居心地と、給仕と酒倉。この三条件によって料理店のよしあしを巴里人は料理の技倆と共に判断する。