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もちのタタリ

餅のタタリ

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第一号」1954(昭和29)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,869 字 · 18 页

青空文庫

「さて、皆さん。ただいまワタクシは新年にちなみ、ツリ竿とビクをたずさえてエビス様のマネをしているわけではありません。実はあまり香しい話ではありませんが、若干おもしろいところもありますので、新年そうそう皆さんのお耳を汚させていただきます。ワタクシが昨夜夜半にふと目をさましたところ、誰やら庭の池の氷をわっている物音が耳につきました。そこで足音を殺し、シンバリ棒を外し、ガラリと戸をあけて大喝一声いたしましたところ、賊はとる物もとりあえず逃げ去りました。あとに残されたのが、この品々です。魚泥棒がツリ竿とビクをおき残して逃げたのにフシギはありませんが、そのほかに、もう一品、異様な物をおき忘れて逃げ去りまして、それがこれなる手ヌグイ包みでありますが」平吉はツリ竿とビクを下において、フトコロから例の物をとりだして、人々に差し示した。

「これが奇妙な物なんですな。はじめ魚のエサかと思いましたが、ビクの中にネリ餌の用意があるのを見ると、これはちがった用向きの物らしい。物は何かと申しますると、まことにフシギや、ほれ、ごらんの如くに焼いた餅です。つまり泥棒はツリをしながら餅を食うつもりでしたろう。