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もちのタタリ

餅のタタリ

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第一号」1954(昭和29)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,869 字 · 18 页

青空文庫

ところが、フシギと申しまするのは、当村は正月には餅を食べないところです。どこの家にも餅のある筈がございません。これが甚だフシギです。遠方のよその土地からわざわざ夜更けに魚泥棒にくる人があろうとは思われませんが、近所に餅を食ってるのは誰でしょうかな」

酒の多少まわってる人々が多かったから、これからが大変なことになった。なぜなら、ただ一人村の長年の習慣を破って餅を食ってる助六に反感をいだいている人が少くなかったからである。

「なるほど、それはまことにフシギだ。大フシギだな。この村に餅を食べる家といえば、たしか一軒あるときいていたが。たしか二軒はなかった筈だな」

「そうだ。そうだ。去年まではたしかに一軒であったが、本日は正月元日、すなわち去年の翌日だから、たぶん、まだ一軒だろう」

「なに云うてるね。昨夜のことなら去年だろう」

「そうだ。これはまさにその通りだ。してみると、たしかに一軒だな」

これをきいて助六は怒った。

「皆さんの話をきいていると、まるで私が犯人のようじゃないか。はばかりながら、私は新年に餅を食うが、鯉や鮒を食うような習慣は持ち合せがない。最近この村外れに道ブシンがはじまって、よそから人足がはいってるから、餅を食ってるのは私だけとは限らない。