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きょうおうふじん

饗応夫人

太宰 治

「光」1948(昭和23)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,914 字 · 13 页

青空文庫

ですよ、もうこうなればね。自分でも生きているんだか死んでいるんだか、わかりやしない。」

客間に大あぐらをかいて、ご自分の事ばかり言っていらっしゃいます。

「お気の毒に。」

と奥さまは、おっしゃって、もう、はや、れいの逆上の饗応癖がはじまり、目つきをかえてお勝手へ小走りに走って来られて、

「ウメちゃん、すみません。」

と私にあやまって、それから鳥鍋の仕度とお酒の準備を言いつけ、それからまた身をひるがえして客間へ飛んで行き、と思うとすぐにまたお勝手へ駈け戻って来て火をおこすやら、お茶道具を出すやら、いかにまいどの事とは言いながら、その興奮と緊張とあわて加減は、いじらしいのを通りこして、にがにがしい感じさえするのでした。

笹島先生もまた図々しく、

「やあ、鳥鍋ですか、失礼ながら奥さん、僕は鳥鍋にはかならず、糸こんにゃくをいれる事にしているんだがね、おねがいします、ついでに焼豆腐があるとなお結構ですな。単に、ねぎだけでは心細い。」

などと大声で言い、奥さまはそれを皆まで聞かず、お勝手へころげ込むように走って来て、

「ウメちゃん、すみません。」

と、てれているような、泣いているような赤ん坊みたいな表情で私にたのむのでした。