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えきふにっき

駅夫日記

白柳 秀湖

「新小説」1907(明治40)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页

青空文庫

ある日のこと、フトした機会から出札の河合が、千代子の身の上についてやや精しい話を自慢らしく話しているのを聞いた。彼は定期乗車券のことで毎月彼女と親しく語を交すので、長い間には自然いろいろなことを聞き込んでいるのであった。

千代子は今茲十七歳、横浜で有名な貿易商正木某の妾腹に出来たものだそうで、その妾というのは昔新橋で嬌名の高かった玉子とかいう芸妓で、千代子が生まれた時に世間では、あれは正木の子ではない訥弁という役者の子だという噂が高く一時は口の悪い新聞にまでも謳われたほどであったが、正木は二つ返事でその子を引き取った。千代子はその母の姓を名乗っているのである。

千代子の通うている「窮行女学院」の校長の望月貞子というのは宮内省では飛ぶ鳥も落すような勢力、才色兼備の女官として、また華族女学校の学監として、白雲遠き境までもその名を知らぬ者はないほどの女である。けれども冷めたい西風は幾重の墻壁を越して、階前の梧葉にも凋落の秋を告げる。貞子の豪奢な生活にも浮世の黒い影は付き纏うて人知れず泣く涙は栄華の袖に乾く間もないという噂である。この貞子が世間に秘密で正木某から少からぬ金を借りた、その縁故で正木は千代子が成長するに連れて「窮行女学院」