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えきふにっき
駅夫日記
白柳 秀湖
「新小説」1907(明治40)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页
弥吉は性来義理固い男で、浩平は小林家の一粒種だというので、かりそめの病気にも非常に気を揉んで、後妻に出来た子どもとは比較にならないほど大切にする。妻も無教育な女にしては珍らしい心がけの女で夫の処致を夢さら悪く思うようなことなく、実子はさて措いて浩平に尽すという風で、世間の評判もよく弥吉も妻の仕打ちを非常に満足に想うていた。
ところが浩平が成長して見ると誰の気質を受けたものか、よほどの変物であった。頭が割合に大きいのに顎がこけて愛嬌の少しもない、いわば小児らしいところの少い、陰気な質であった。学友はいつしか彼を「らっきょ」と呼びなして囃し立てたけれども、この陰欝な少年の眼には一種不敵の光が浮んでいた。
中学へ行ってからのことは駅長は少しも知らなかったそうだ。しかし一しょに行ったものの話では小学時代と打って変って恐ろしい乱暴者になったそうだ。卒業する時には誰でも小林は軍人志願だろうと想像していたが、彼は上京して東京専門学校で文学を修めた、この間駅長は鉄道学校にいて彼に関する消息は少しも知らなかったが、四年ばかり以前に日鉄労働者の大同盟罷工が行われた時、正気倶楽部の代表者として現われたのは、工夫あがりの小林浩平であった。