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えきふにっき
駅夫日記
白柳 秀湖
「新小説」1907(明治40)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页
私の前には餓死と労働の二つの途があって私はただ常暗の国に行くために、その途の一つをたどらなければならないのだ。
駅長も細君も少からぬ同情をもって私の話を聞いてくれた。やや寒い秋の夜風が身にしみて坪の内には虫の声が雨のようである。
十五
その夜駅長は茶を啜りながら、この間プラットホームで蘆工学士を突き倒した小林浩平の身の上話をしてくれた、私がただ学問とか栄誉とかいうはかないうつし世の虚栄を慕うて、現実の身を愧じ、世をかねる若い心をあわれと思ったからであろう。その話の大概はこうであった。
小林というのは駅長の郷里で一番の旧家でまた有名な資産家であった先代に男の子がなくて娘ばかり三人、総領のお幾というのが弥吉という婿を迎えて、あとの娘二人はそれぞれよそに嫁づいてしもうた。この弥吉とお幾との間に出来たのがかの小林浩平で、駅長とは竹馬の友であった。
ところがお幾は浩平を産むととかく病身で、彼がやっと六歳の時に病死してしもうた。弥吉もまだ年齢は若いし、独身で暮すわけにも行かないので、小林の血統から後妻を迎えておだやかに暮して行くうちに後妻にも男の子が二人も生まれた。