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えきふにっき

駅夫日記

白柳 秀湖

「新小説」1907(明治40)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页

青空文庫

いつしか昔の悲しい、いたましい母子の生活の上に遷ったのである。

ぼんやりしていた私は室の入口のところに立つ人影に驚かされた、見上げるとそれは白地の浴衣に、黒い唐縮緬の兵児帯を締めた、大槻であった。

「君! 汽車は今日も遅れるだろうね」

「ええ十五分ぐらい……は」と私は答えた。山の手線はまだ世間一般によく知られていないので、客車はほとんど附属のような観があった、列車の遅刻はほとんど日常のこととなっていた。

日はもういつしか暮れて蜩の声もいつの間にか消えてしまった。

大槻はちょっと舌を鳴らしたが、改札の机から椅子を引き寄せて、鷹揚に腰を下した、出札の河合は上衣の袖を通しながら入って来たが、横眼で悪々しそうに大槻を睨まえながら、奥へ行ってしまった。

「今からどちらへいらっしゃるのですか」私は何と思ってか大槻に問うた。

「日比谷まで……今夜、音楽があるんだ」と言い放ったが、白い華奢な足を動かして蚊を追うている。

三

「君! 僕一つ君に面白いことを尋ねて見ようか」

「え……」

「軌道なしに走る汽車があるだろうか」

「そんな汽車が出来たのですか」

「日本にあるのさ」

「どこに」