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かみ

髪

織田 作之助

「オール読物 十一月号」1945(昭和20)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,381 字 · 17 页

青空文庫

ただ一つ私は東京帝国大学の文科というものを信じていた。そこでの講義は高遠であり、私のような学識のない者は到底その講義を理解することが出来ぬだろうと真面目に信じていたのである。それ故私は卒業の日が近づいて来ると、にわかに不安になり、大学へはいるのはもう一年延ばした方がいいのではなかろうか、もう一年現級に止まってみっちり勉強してからにした方が賢明ではなかろうかと思ったので、ある日教師を訪問して意見をきくと、教師の答は意外だった。君のその希望は君の意志をまつまでもなくかなえられるだろう。何故なら学校では君の卒業は許さぬことに決定している。理由は三つある。一つ欠席日数超過、二つ教師の反感を買っていること、三つ心身共に堕落していること、例えば髪の毛が長すぎる云々。

私は希望通り現級に止まったが、私より一足さきに卒業した友人がノートを残して行ってくれたので、私は毎年同じ講義のノートをもう一つ作るために教室へ出掛けることは時間の空費だと思った。この考えは極めて合理的な考えであったが、同時にこれ以上不合理な考えはなかった。

私の欠席日数はまたたく間に超過して、私は再び現級に止まることになった。