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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

見ると、浴衣の袖や裾に、点々として黒い血痕が附着している。

「僕には全く訳が分りません。どうしてこんなものが僕の部屋の縁の下にあったのか。浴衣は僕のものの様です。併し血痕は全く覚がありません」

幸吉は追いつめられた獣物の様に、目を血走らせ、やっきとなって叫んだ。

「覚がないではすむまいよ」判事は落ちつき払って「第一はKの署名ある呼出状、第二は実に不思議なアリバイの不成立、第三はこの浴衣だ。君はその一つをも言い解くべき反証を示し得ないじゃないか。これ程証拠が揃って、しかも弁解が成立たないとしたら、最早や犯罪は確定したといってもいい。私は君を、山北鶴子殺害の容疑者として拘引する外はないのだ」

判事が云い終ると、署長の目くばせで、二人の警官が、ツカツカと幸吉の側に近づき、左右からその手を取った。

「待って下さい」

幸吉はゾッとする様な死にもの狂いの表情になって絶叫した。

「待って下さい。君達の集めた証拠はみんな偶然の暗合に過ぎない。そんなもので罪に陥されて堪るものか。第一僕には動機がないのだ。僕が、何の恨みもない許婚の少女を、なぜ殺さなければならないのか」

「動機だって? 生意気を云うな」