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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

殿村は、幸吉が何を物好きに、こんな変てこな女を愛したのかと疑いながら、兎も角も、幸吉の拘引せられた顛末を語りきかせ、犯罪の当日、彼は本当に雪子を訪問しなかったのかと訊した。

すると、何という冷淡な女であろう、雪子は恋人の拘引をさして悲しむ様子もなく、言葉少なに、その日幸吉は一度も来なかった旨を答えた。

殿村は話している内に、段々変な気持になって来た。雪子という女が、感情を少しも持たぬ、人造人間か何かの様にさえ思われて、一種異様の不気味さを感じないではいられなかった。

「それで、あなたは、今度の事件をどう思います。大宅君が人殺しなぞ出来る男だと思いますか」

少々癪に触って、叱りつける様に云うと、相手は相変らずの無感動で、

「あの人が、そんな大それたことをなさるとは思われませんけれど……」

と実に煮え切らぬ返事だ。

この女は恥かしがって感情を押し殺しているのか、真からの冷血動物なのか、それとも若しかしたら、幸吉をそそのかして鶴子を殺害せしめた張本人である為に、その罪の恐怖に脅え切て、こんな様子をしているのか、全くえたいの知れぬ、不思議な感じであった。

彼女が何かにひどく脅えていることは確で、丁度その家の裏が停車場の構内になっているものだから、絶えず機関車の往き来する音が聞え、時々はすぐ窓の外で、鋭い汽笛が鳴り響く