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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
のだが、そんな物音にも、雪子はビクッと身を震わせて驚くのだ。
雪子はこの家の二階を借りて、一人で暮しているらしい。調度などが何となく職業婦人を思わせる。
「どこかへお勤めなんですか」
と尋ねて見ると、
「エエ、少し前まである方の秘書を勤めていましたが、今はどこへも……」
と口の中でモグモグ云う。
何とかして本音を吐かせようと、なお色々話しかけて見たが、雪子は黙り勝ちで少しも要領を得ない。絶えずうつむいて、目をふせて、口を利く時も、殿村を正視せず、まるで畳と話しをしている様な鹽梅だ。
結局、殿村は、この雪子の執拗な沈黙をどうすることも出来ず、一先ずその家を辞去することにしたが、いとまを告げて、階段を降りかけても、雪子は座敷に坐って頭を下げているばかりで、下へ送って来ようともせぬ。
玄関の土間に降りると、それでも、例のお婆さんが見送りに出て来たので、殿村は、念の為に、その耳に口を寄せて、
「今日から三日前、つまり一昨々日ですね。絹川さんの所へ男のお客さんはなかったですか、丁度わたし位の年配の」
と尋ねて見た。二階の雪子に気兼をしながら、二三度繰返すと、やっと、