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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

国枝君はまだこちらにいますか。警察ですか」

殿村が気狂いの様に叫び出したので、警官は面喰らいながらも、国枝予審判事が丁度今警察署に来ている旨を答えた。

「よろしい。じゃあ君はすぐ帰って、国枝君に僕が行くまで待っている様に伝えて下さい。殺人事件の犯人を引渡すからといってね」

「エ、犯人ですって。犯人は大宅幸吉じゃありませんか。あなたは何を馬鹿なことをおっしゃるのです」

警官が仰天して叫んだ。

「イヤ、そうじゃないのです。犯人は外にあることが、今やっと分ったのです。想像も出来ない邪悪です。アア恐ろしいことだ。兎も角、国枝君にそう伝えて下さい。僕がすぐあとから行って説明します」

殿村が気狂いの様に、繰返し繰返し頼むので、事情は分らぬながら、煙にまかれてしまって、警官はアタフタと署に帰って行った。国枝判事の親友である殿村の言葉を、無下にはねつける訳にも行かなかったのだ。

途中で警官に別れると、殿村はいきなり停車場にかけつけ、駅員をとらえて、奇妙なことを尋ねた。

「今日午前九時発の上り貨物列車には、材木を積んでいましたか」

駅員は、びっくりして、ジロジロ殿村の顔を眺めていたが、何と思ったのか、親切に答えてくれた。