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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

と言って、部屋を出ようとしたり、声を出そうとすれば、今にも喬之助の手に白刃が閃めきそうに思われるのだ。玄蕃は、素手である。すっかり参ってしまって、俄かに思いついて友達めかして懐しそうに出たのだ。そのうちには、言いつけて置いたとおり、屋敷の者も集まって来るであろうし、またあの、助勢を頼んでやった浅香氏も、駈けつけてくることであろう。それまでは、何事も穏かに、おだやかに、飽くまでも下手に出て、この、一度血を見た若い獣のごとき神尾喬之助を、何とかあしらって置かねばならぬ……と、思ったが、あぶない。傍へは寄れぬ。で、遠くから、うつろな笑いをつづけて、こうなると、万年平番士も才が必要だ。柄になく、愛嬌たっぷりに言ってみた。

「あはははは、神尾うじ、なア、済んだことは、済んだことではないか――ウウ、今ではナ、却って、わしら一同、貴殿に同情を寄せておるのじゃ。いやまったく、貴殿が勘忍袋の緒を切られたのも、無理はござらぬて。今にして思えば、かの戸部近江と申すやつ、実にどうも悪辣なやつであったな。よく思い切って斬りなすったよ。みんな、その、貴殿に感謝しておる訳さ。で、今日も番士一統寄合いを開いてナ、連名の上、貴殿のお許しを脇坂様まで願い出ようということになったのじゃ。