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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

気が急く。刀の始末をせねば――。

「長庵、あとをよく閉めて参れ」

そのまま、独り家へ上った大迫玄蕃、スタスタと元の座敷へ帰って来て、サラリ、障子を引いて一歩踏み入ったかと思うと、――流石は武士、低い声だった。

「ヤヤッ! 誰だッ?……」

六

いつの間にどこからはいり込んだのか。

座敷の床の間に腰かけて、ニタリニタリ笑っている神尾喬之助――。

肩に継布の当った袷一枚に白木の三尺、そろばん絞りの紺手拭いで頬かむりをしている。暫らくの間に巷の埃によごれ切って、侍とも無頼漢とも知れない、まことに異形な風俗だ。長い刀を一本ぶっ込んだまま、玄蕃を見上げて、相変らず美しい顔を笑わせている。ほとんど無心に見えるのだ。

たださえギョッ! とした玄蕃だ。それが一層、この喬之助の放心したような態度には、言い知れぬ不気味なものが感じられて、しばらくは口もきけなかったが、やっとのことで、

「ヨ、よく来たナ、苦労したろう。エ? 苦労したでござろう。察する。察する。な、な、元通り気易に願おう」

刀を取ろうにも、刀は、喬之助が尻の下に敷いているのみか、まだ綱が捲いてあるのだから、たとい手にあっても、どうすることも出来ぬ。