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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

どっちも、用心して、この戸一まいが容易に明けられないのだ。

押しつけるような閑静のなかを、直ぐ前の御成街道をゆく鳥追いの唄三味線が、この、まさに降らんとする血の雨も知らず、正月を得顔に、呑気に聞えて来ていた。

と、壁辰が、誘いの声を投げた。

「お若いの――いや、神尾喬之助さまとおっしゃいましたね。何もあっしが、下手な文句を並べずとも、ズンとお解りでございましょう。神妙に、失礼ながらこの壁辰めの繩をお受けになりますか。それとも、この老爺を相手取って、ドタバタみっともねえ真似をなさるお気ですかね」

すると、茶の間にいるとばかり思っていた喬之助の声が、案外、戸のすぐ向う側でしたので、壁辰は、ぎよッ! として戸を押さえた。

「壁辰殿」と、お里が知れた以上、喬之助も本来の侍に帰って、「甚だ不本意だが、拙者は、まだ捕まるわけには参らぬ用がござる。よって、この儘穏便に引き取り申す。拙者が立ち去ってから百の数をかぞえたのち、この戸をあけてお出になるがよい。あははははは」

戯けた言分!――と、壁辰はすこしむっとなった。

「何を? まだ用がある? 悠長なことを言ってますぜ。