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ぎょげんき
魚玄機
「中央公論」1915(大正4)年7月
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 9,866 字 · 20 页
領や肘はいつも垢膩に汚れている。玄機に緑翹を忌む心のなかったのは無理もない。
そのうち三人の関係が少しく紛糾して来た。これまでは玄機の挙措が意に満たぬ時、陳は寡言になったり、または全く口を噤んでいたりしたのに、今は陳がそう云う時、多く緑翹と語った。その上そう云う時の陳の詞は極て温和である。玄機はそれを聞く度に胸を刺されるように感じた。
ある日玄機は女道士仲間に招かれて、某の楼観に往った。書斎を出る時、緑翹にその観の名を教えて置いたのである。さて夕方になって帰ると、緑翹が門に出迎えて云った。「お留守に陳さんがお出なさいました。お出になった先を申しましたら、そうかと云ってお帰なさいました」と云った。
玄機は色を変じた。これまで留守の間に陳の来たことは度々あるが、いつも陳は書斎に入って待っていた。それに今日は程近い所にいるのを知っていて、待たずに帰ったと云う。玄機は陳と緑翹との間に何等かの秘密があるらしく感じたのである。
玄機は黙って書斎に入って、暫く坐して沈思していた。猜疑は次第に深くなり、忿恨は次第に盛んになった。門に迎えた緑翹の顔に、常に無い侮蔑の色が見えたようにも思われて来る。