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はとつかい

鳩つかひ

大倉 燁子

「富士 九巻八号」1936(昭和11)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,680 字 · 30 页

青空文庫

薄暗闇なので、その男の年齢も容貌もよくは分らないが、片手に縄を持ち、片手に磨ぎ澄ました大きな海軍ナイフを握りしめ、蒲団の上をきっと睨んだ、やがてナイフを逆手に持ち直し、息を吸ったと思ったら、ハッシとそれをたたきつけた、刃物は蒲団の上にずぶりと突立った。本田は敢然と起立って飛びかかり、全力をこめて組みついた。真黒い二つのかたまりは上になり下になり、もみ合った。

「畜生!」

本田は相手を捩じ伏せ、力まかせに横面を張り倒した。男は唸り声を立てて動かなくなった。彼は息を切って、ナイフを拾い上げ、電燈をつけた。ぱっと明るくなったので男は気がついたがもう抵抗する力はなかった。二十四五歳位だろうか、ぼろ洋服に破れた毛編のジャケツを素肌に着ていた。鼻から耳へかけて大きな切疵のあとがあった。

「起きろ!」

本田はナイフを握りしめて怒鳴った。男は流し眼にじろりと見上げたが、それでも素直に起き上って坐った。両方の膝頭はぶるぶると震えている。青い顔に赤い疵が目立った。

「貴様、俺を殺しにやって来たのか? 誰に頼まれたんだ?」

男は答えない。

「何故黙っているんだ、云え! 云わないと打ち殺すぞ!」