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とびとかきととり

鳶と柿と鶏

豊島 与志雄

「知性」1939(昭和14)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,493 字 · 21 页

青空文庫

十月になりかけて、浜にはもう散歩の人影もなく、夕陽を受けた海は赤いが、微風は肌にしみる心地がされた。

吉村は平たい小石を拾って、海面でみずきりをやった。李もそれをした。水面に石を十回跳ねさせることは至難だった。李は殊に下手だった。

ふいに、君枝が笑いだした。吉村がまだこれまで彼女に聞いたことのないような朗かな笑いだった。振向いてみると、石を投げる李の恰好がおかしいというのである。注意してみると、なるほど、李は大きく腕を振り廻しはするが、投げるとたんに、肩口からほうり出す恰好になるのだった。

「李さんたら、まるで赤ん坊みたいよ。」と云って君枝はまた朗かに笑った。

李は吉村をまねようとして、その赤ん坊みたいな動作を何度も繰返した。

その折の君枝の珍らしい朗かな笑いが特別に吉村の心に残ったほど、いつも平凡な散歩にすぎなかった。

吉村は朝から机に向っていたが、頭が疲れてくると、午後など、丘の方へぶらりと出て行った。丘の中腹の小径を辿ってゆくと、初めて李に出逢った野原のところへ出る。それから少しゆくと、丘の先端で、先方の丘との間に盆地をなしてる畑地が目下に見え、右手は海に展けている。