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とびとかきととり
鳶と柿と鶏
豊島 与志雄
「知性」1939(昭和14)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,493 字 · 21 页
黙っているようにとの合図らしかった。
だが、そのちょっとした悪戯よりも、彼女の素振りのうちに、吉村は意外なものを発見した。肺を病んで、神経質で、痩せて、骨立って、顔色も浅黒く、そればかりか、日常の言語は、へんに精神的だがぽきりと棒ぎれのようだし、挙措動作も、はきはきしてるがぎごちなく、謂わば凡てに女性的な濡いと曲線とが乏しい彼女なのだが、その時の彼女の素振りには、おのずから流れ出た子供っぽいものがあったのだった。その意外な発見に、吉村はなにか虚を衝かれた気持で笑顔も浮ばず、自然と初対面のような態度で、近づいていった。
李はすぐに紹介しはじめた。
「吉村先生です。……こちらは、上山君枝さん、たいへん文学が好きなかたで、いえ、女流文士で、私の先生です。」
「まあ、たいへんなことになりましたね。いつのまにか、女流文士で、李さんの先生で……。」
吉村が一人笑って、云った本人の君枝もまた李も笑わなかった。
君枝はナイフや皿を取寄せて、柿をすすめながら、李との初対面のことを話すのだった――
或る日、夕方、君枝が縁側に腰掛けて雑誌を見ていると、垣根の外から、ボールがはいったから取らして下さい、と子供の声がした。