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こうのすにょうぼう
鴻ノ巣女房
矢田 津世子
「文芸」1941(昭和16)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,884 字 · 24 页
ほんの手内職のつもりではじめたことが、いつのまにか本職になってしまった。この家の一人娘の遺品だという古ミシンをつかって、片手間に近所の人たちの簡単服だのエプロンだのの賃仕事をしているうちに、出入りのクリーニング屋から話がついて、衛生服や医務服の下請をするようになった。ぎん一人では手もまわりかねるので、中古を買いこんだり賃借りをしたり、いまは通いの娘たちも汗みずくの忙しさである。
年寄りの主人夫婦から一切をまかされているぎんは、ミシンにばかりかかりつめているわけにはいかない。年寄りが喜びそうな惣菜をこしらえたり、お針をしたり、洗濯をしたり、鼠捕りをしかけたり、市場へ買い出しに行ったり……。市場で、ぎんは「負けれせ」という呼び名で通っていた。ひね生姜一つ買うにも値切らずにはおかなかったからである。まったくぎんは値切ることにかけては名人だった。ちょいした瑕やあらを見付けては、国訛りのぼっそりとした調子で「負けれせ」というのが口癖なのである。あの「負けれせ」に会っちゃ敵わねい、と物売り達は投げるように手を振って、ぎんが買い出しに来る頃合いをみて「本日は負からずデー」