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つるはやみき

鶴は病みき

岡本 かの子

「文学界」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页

青空文庫

」私「淋しいと思い、そして私が感情家だから、なおそんな処まで考え抜いちまったんですよ。」氏「判りました。あなたが怒りんぼうのくせに、じき優しくなるのも、そんな思考の曲折や、性格の変化があなたにあるからですな。」私「そうでしょうか。私なんか煩悩だらけで、とても、ものごとを単純に考えて、晏如として居られないんです。そのくせ性格の半面は、とても単純でのん気千万のくせに。」すると従妹が突然「それが好いわよ。」と妙なしめくくりをつけたので、私はちぐはぐな気持ちになって黙って仕舞った。麻川氏は私達の側から立って今一つあいている長方形の涼み台の上に仰向けになった。八月下旬に近く、虫がしんとした遠近の草むらで啼いている。麻川氏の端正な顔が星明りのなかでデスマスクの様に寂然と見える。ひょっとしたら、尖った鼻先から氏の体が、見る見る白骨に化して行くのでは無いかと思われてぞっとした。そして、私のそのかすかな身ぶるいのなかを氏の作品の「羅生門」の凄惨や「地獄変」の怪美や「奉教人の死」の幻想が逸早く横切った。私はそれ等諸作の追憶から湧き上る氏への崇拝の心を籠めて、「とにかくお体を大切になさいまし。