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むぎのめ

麦の芽

徳永 直

「中外日報」1930(昭和5)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,532 字 · 10 页

青空文庫

「これでよし、よし……」

野良着をつけると、善ニョムさんの身体はシャンとして来た。ゆるんだタガが、キッチリしまって、頬冠した顔が若やいで見えた。

「三国一の花婿もろうてナ――ヨウ」

スウスウと缺けた歯の間から鼻唄を洩らしながら、土間から天秤棒をとると、肥料小屋へあるいて行った。

「ウム、忰もつかみ肥料つくり上手になったぞい」

善ニョムさんは感心して、肥料小屋に整然と長方形に盛りあげられた肥料を見た。馬糞と、藁の腐ったのと、人糞を枯らしたのを、ジックリと揉み合して調配したのが、いい加減の臭気となって、善ニョムさんの鼻孔をくすぐった。

善ニョムさんは、片手を伸すと、一握りの肥料を掴みあげて片ッ方の団扇のような掌へ乗せて、指先で掻き廻しながら、鼻のところへ持っていってから、ポンともとのところへ投げた。

「いい出来だ、これでお天気さえよきゃあ豊年だぞい」

善ニョムさんは、幸福だった。馬小屋の横から一対の畚を持ってくると、馴れた手つきでそのツカミ肥料を、木鍬で掻い込んだ。

「ドッコイショ――と」

天秤の下に肩を入れたが、三四日も寝ていたせいか、フラフラして腰がきれなかった。