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むぎのめ

麦の芽

徳永 直

「中外日報」1930(昭和5)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,532 字 · 10 页

青空文庫

一

善ニョムさんは、息子達夫婦が、肥料を馬の背につけて野良へ出ていってしまう間、尻骨の痛い寝床の中で、眼を瞑って我慢していた。

「じゃとっさん、夕方になったら馬ハミ(糧)だけこさいといてくんなさろ、無理しておきたらいかんけんが」

出がけに嫁が、上り框のところから、駄目をおして出ていった。

「ああよし、よし……」

善ニョムさんは、そう寝床のなかで返事しながらうれしかった。いい嫁だ。孝行な倅にうってつけの気だてのよい嫁だ。老人の俺に仕事をさせまいとする心掛がよくわかる――。

しかし、善ニョムさんは寝床の中で、もう三日くらした。年のせいか左脚のリュウマチが、この二月の寒気で痛んでしようがなかった。

「温泉にやりちゃあけんと、そりゃ出来ねえで、ウンと寝て癒してくんなさろ……」

息子は金がないのを詫びて、夫婦して、大事に善ニョムさんを寝かしたのだった……が、まだ六十七の善ニョムさんの身体は、寝ていることは起きて働いていることよりも、よけい苦痛だった。

寝ていると、眼は益々冴えてくるし、手や足の関節が、ボキボキと音がして、日向におっぽり放しの肥料桶みたいに、ガタガタにゆるんで、タガがはずれてしまうように感じられた。