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たそがれ
黄昏
宮本 百合子
「婦人画報」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,500 字 · 29 页
「早くから来たいと思わないではなかったんだけれど……お前も知っている通り、何にしろ田舎者だからね。電車を思っただけでつい面倒になって……」
「そうですともね、時々乗換が違ったりしますもの無理はありませんよ。……でも、この間、海老原のお順さんが来て、阿母さんの消息を訊かれたにはすっかり困ってしまった」
「海老原って、国の?」
「ええ」
ふさ子は、鉄瓶を重そうに傾けて急須に湯を注(つ)いだ。
「――構わないのにさ!」
「いつでも阿母さんはそうお云いなさるけれども、世の中だもの、そう何でも彼でも構わないさでは済みませんよ」
海老原というのは、おくめの祖母の弟嫁に当っていた。祖母が後妻で、早く父を失ったおくめに、若いときから今日に至る苦労の種を与えた人であるということから、彼女は、海老原の一家にも好感は抱いていなかった。東京まで来て、また何か云って行ったのだと思うと、おくめは、その話を進める気分にはなれなかった。
「それはそうと、丈一はどうしたえ、もう寝てしまったの?」
彼女は話題(はなし)を換えた。
「ええ、もう、そろそろ立っちをするのであぶなくってね。ばあやも碌なのは見つからないし……」