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きいろいばん

黄色い晩

小川 未明

「早稲田文學」1909(明治42)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,173 字 · 13 页

青空文庫

私は、黙って彼の枕許に坐って見ていた。

やがて、大分冷めた時分に、周蔵は醤油色をした、臭の劇しい煎薬の茶碗を取上げた。最初は眼を閉って、尖った唇で何か甘い物でも飲むような調子で悠然と吸い始めたが二口、三口目から、彼の顔付は怖しく変って、口は耳許まで裂けたように薄黒い歯をむき出して、大きな口を開けて、眼は険しげに光った。私はいつもの周蔵でないように怖ろしかった。周蔵は薬を飲むとまた苦しそうに呻吟出した。私は家へ帰ろうかと思ったが、いかにも周蔵の苦しんでいるのを見捨てて帰るに忍びなかった。で、

「周さん、どんなに苦しいか。」と聞いた。

「死にそうに苦しい。」と彼は答えたがその声すら、重々しかった。室の内は熱臭く、煎薬の臭いで一ぱいになって、私もどうやら頭が痛み出して来た。

「私は家へ帰るよ。」と半分周蔵に気兼をして、――この儘彼の苦しむのを見捨てて帰るのが不人情のようで心に咎めたから――声が戦えたのである。すると周蔵は私の名を呼んだ。

「正雄さん、私の家へ行って母親に来いといってくれないか――今夜にでも私は死にそうだ。」と彼は急に苦しみ出した。

私は死ぬるということは偽だと思った。