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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

俺のようになっちゃあ、もう駄目だぜ。駄目ってこたあ、世の中に用がなくなるってことだ。」

父はもう舌がよく廻らないのを、一生懸命に云い続けてるらしかった。

「俺はな、十二の時から世の中に乗り出したものだぜ。十二の時から……鉄屑を拾ってな、大した仕事じゃねえさ。だが、素晴らしく大きな釜だったぜ。十石も二十石もはいろうというやつでね。その中に鉄が真赤に煮えくり返ってるんだ。そんな釜を持ってる者あ、ど豪い人だろうと、俺は子供の時分そう思ったね。そして俺はどうかと云やあ、工場の隅から隅まで鉄屑を拾って歩く役目さ。立派な職工達が夜中まで働えてた。造兵なんかよりもっときちっと整ってた。今から見りゃあ、ちっぽけな工場だが……。その工場で俺は、鉄屑を拾ってきたんだ。そして……なあに考えてみりゃあ、一生鉄屑を拾ったようなもんだ。他人のためにな……。だが、こいつが肝心だぜ。こいつ一つだ。鉄屑でも拾ってるうちゃあ、まだ世の中に用があったんだ。鉄屑も拾えなくなっちゃあ、もうおしまいだからな。だが、今時の若え者あ、豪いことを考えてるぜ。そいつが俺にはよく分らねえんだが……。何しろ、もう年が年だからね。