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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

」

それが何のことだか私には分らなかったが、ただその時の感じで、父の方が道理らしい気がした。

然し実は、父の方の間違いだと分ってきた。

或る晩遅く、私はふと眼を覚した。隣りの室に、父も母も寝間着の上に着物をはおって坐っていた。その前に、カフェーから帰ってきたままの姿で、姉がいきり立っていた。

「家の近くにいちゃいけないというなら、あたしからお清ちゃんにはそう云うよ。ばかばかしい。人の情人を探偵と間違える者がどこにあるものかね。だからお父つぁんは耄碌したって云われるんだよ。」

「だが、こないだなんか、朝っぱらからやって来て、家の中をじろじろ覗き込んでいったぜ。」

「そりゃあ、隣りだし、あたしの家だってことが分ってるからだよ。これであたしがちゃんとしてるからいいが、もし色っ気でも出して、男につけ廻されるようなことになったら、お父つぁんは死んじまうだろうよ。ほんとにばかばかしくって、呆れ返っちまうわ。」

「いや俺も、寺田さんの一件やなんかがなかったら、こんなに気を揉みゃあしねえが、あれ以来何だが気が弱っていけねえ。それにしたって、今晩はちとひどすぎるじゃねえか。