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こくてん
黒点
豊島 与志雄
――或る青年の「回想記」の一節――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页
それがやがて、彼女だということが分った。
私は一寸考えてから、小石を三つ四つ拾った。初めのはいい加減のところへ投げやって、最後の一つを、狙いをつけて窓の障子に投げた。古い紙だったとみえて、ぷすっというような音がした。
「あら。」
頓狂な声がして、障子が開いた。小さな壜を片手に持ったままお清が上半身を見せた。彼女は方々を透し見て、それから最後に私の方を見た。
「あんた、今石を投げたのは。」
私は彼女が怒り出すだろうと待ち構えていたが、少しもそんな様子がないので、昂然と云ってやった。
「そうだよ。」
「いやね、障子に放ったりしちゃ。壁にでも……屋根にでも……投るものよ。いいからいらっしゃい。」
彼女がほんのちょっちょっと指先で手招きしたので、私は何のことだか分らなかったが、やはり顔をふくらましたまま近づいていった。
「なあに。」
彼女の方からそう尋ねかけて、私の顔をじっと見入ってきたので、私はなおまごついてしまった。
「どうしたの。」
そこで私は咄嗟に思いついて云ってやった。
「風船玉……。」
「あ、あれ。忘れちゃった。こんど買ってきてあげるわ。……でも、あんた誰から石を投ることを教わったの。