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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

私は皆から観察されながら、こちらでも皆の方を観察してやった。女給は大抵お清より年下の者が多いようだった。どれもみな同じような顔に見えた。ただお清の混血児顔が一人違っていた。客は会社員や学生だった。みな髪の毛を長くして顔の艶がよかった。誰も彼も愉快そうでそして威張りたがってるように見えた。が不思議なことには、一人もどっしり腰を落付けてる者がなく、いつでもひょいと立上れるようにしている、とそういう感じがした。それがひどく私には不安だった。そしても一つ不安なのは、皆が赤の他人で而も互に識り合いだという変な矛盾した感じだった。

痩せたハイカラな男とお清が暫く話をして私の方へやって来た時、私は尋ねた。

「もう帰ってもいい。」

「ええ、いいわ。こんどまたいらっしゃい。」

そして彼女は私の方へ屈みこんで、一円だけ置いてゆくように云って、つと身を退いた。私は立上って、わざと様子ぶって五十銭玉を二つ卓子の上に置いた。そしてぷいと飛び出してやった。

ぞーっと寒けがした。街路が薄暗く思えた。私はぶつぶつと唾を吐いた。形態の知れない反抗心が湧き起ってきた。前に考えたことがみなひっくり返ってしまい、皆から馬鹿にされ、恥しい目に逢った、とそんな気がした。