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こくてん
黒点
豊島 与志雄
――或る青年の「回想記」の一節――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页
その視線がじっくりと、お清の身体に絡みついてゆくようなのに、私はぞっとした。
お清自身は平気らしかった。少くとも平気らしく振舞っていた。一寸挨拶をしておいて、澄ました顔でつっ立っていた。以前の通りよくやって来た。お三代に物を持ってきてくれたり、朝は大抵お新を誘いに来た。私に対しても元通りだった。
「あんた、すっかり云っちゃったのね。お金を返されて困ったわ。」
あれから最初に顔を合せた時に彼女はそう云った。
「またカフェーに遊びに来ないの。来ちゃいけないの。」
二度目にはそう云った。
「カフェーなんかつまんないでしょう。じゃあ、あたしが隙な時、あたしの室へいらっしゃい。」
三度目にはそう云った。
然し私は、彼女と話をするのが憚られた。どこからか父が恐い眼付で覗いてるような気がした。その上、カフェーへ行ってからは、彼女の魅力がひどく薄らいでしまった。
「何か怒ってるの。ああ、紙風船を買って来ないから……。」
そう云って彼女はやさしく笑ったこともあった。
だが、彼女はいつまでも私に紙風船を買ってくれなかった。私のことなんかは殆んど念頭に置いていなかったらしい。