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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

お清は愉快そうに一人ではしゃいでいた。混血児顔を消してしまうあどけない笑いが、始終口元に浮んでいた。

父は酔ってただぼんやり坐ってるだけというように見えた。然しその眼は時々、いつぞや私が裏口で隙見した時と同じような鋭さになって、お清の顔や手足や胴体など、どこといわず落ちたところに、ぴったりくっついていって長く離れなかった。その方へまた私は、見まいとしてもじりじり気が惹きつけられていった。父が眼をつぶって顔を外らすと、私はほっと息がつけた。がそれでもやはり、父の心全体がお清の方にねじ向いてるのが感じられた。

お清は勿論父の眼付を感づいてるに違いなかった。上気してたような顔が次第に蒼白くなってゆき、あどけない笑いが消え、額のあたりが冷たそうになっていった。そしてしまいには反抗的な態度に出た。爪の色がどうだとか云ってしきりに指先を弄んだ。その手をだらりと炬燵の上に投げ出した。膝を崩してしどけない坐り方をした。わりに毛深くて困ると云って、実は毛の少いまるっこい二つの腕をまくってみせた。彼女の皮膚は非常に毛穴が小さく肉のぼってりした感じで、見ようによってはいくらか不気味だった。