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こくてん
黒点
豊島 与志雄
――或る青年の「回想記」の一節――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页
それでも後に、彼は七年の刑に処せられた。
私は当時新聞紙にのってる彼の写真を見て驚いた。目鼻立の整ったやさしそうな青年で、人殺しをしそうな顔ではなかった。
それから父は、盗賊を捕えようとして殺された勇敢な老人と報道された。砲兵工廠に長年勤続した模範職工とも書かれていた。お清と父との間柄は何一つ発かれなかった。それを知ってるのは、当事者以外では恐らく私一人だけだったろう。
父の葬式は悲しかった。警察署や裁判所などとの交渉の間に挾って、慌しく取行われた。お花も啓次も久しぶりで家にやって来た。
私は寺田さんが来てくれやしないかと思って喜んだり心配したりした。寺田さんに逢うのはその場合私の最も嬉しいことだった。然しもしやって来たら警官に捕りはすまいかと心配した。
寺田さんはやって来なかった。何の便りもなかった。
私は寺田さんから貰った大きな虫眼鏡をなつかしく取出した。始終持って歩いて、いろんなものを眺めては一人心を慰めた。それをお花が不思議そうに見とがめた。
「それ、珍らしいものねえ。」
「うむ。」と私は昂然として答えた。「これで太陽を見ると、汚点が見えるんだ。