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つづみくらべ
鼓くらべ
山本 周五郎
「少女の友」1941(昭和16)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,577 字 · 18 页
お留伊は暫くして冷やかに云った。
「おまえ津幡の者ではないの、そうでしょう。津幡の能登屋から、なにか頼まれて来たのでしょう」
「わたくしは旅の者でございます」
「隠しても駄目、あたしは騙されやしないから」
「わたくしは旅の者でございます」
老人は病気でもあるとみえて、苦しそうに咳きこみながら云った。「……生まれは福井の御城下でございますが、ながいこと他国を流れ歩いて居りました。けれども、もう余命のない体でございますから、せめて先祖の地で死にたいと思って、帰る途中でございます」
「ではどうして福井へ行かないの、どうしてこの森本でぐずぐずしているの」
「持病の具合が思わしくないので、宿はずれの宿にもう半月ほども泊って居ります……一日も早く帰りたいとは存じますが、帰っても親類縁者の頼るところはなし。いや!」
老人は急に灰色の頭を左右に振った。
「こんな話はなんの興もございません。本当になんの興もございません……。それよりもお嬢さま、今まで通りこの老人に、お庭の隅からお手並を聴かせてやって頂きとう存じます」
「いつ頃から此処へ来はじめたのだえ」
お留伊は疑の解けた声音で云った。