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つづみくらべ

鼓くらべ

山本 周五郎

「少女の友」1941(昭和16)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,577 字 · 18 页

青空文庫

けれど……老人はいま重い病床にあるという、そして死ぬまえにいちど自分の鼓を聴きたいという、その二つのことがお留伊の心を動かした。

「いいわ、行ってあげましょう」

彼女は冷やかに云った。「……おまえあたしの鼓を持っておいで、それから家の者に知れてはいけないから静かにしてお呉れ」

手早く身支度をしたお留伊は、その娘に鼓を持たせて家を出た。松葉屋というのは宿はずれにある汚い木賃宿であった。老人はひと間だけ離れている裏の、狭い煤けた部屋に寝ていた。

「ようおいで下さいました」

老人は衰えた双眸に感動の色をあらわしながら、じっとお留伊の眼をめた。「……御城下へおいでになったとうかがいましたので、もう二度とお嬢さまのお鼓は聴けないものと諦めて居りました。……有難うございます。ようおいで下さいました」

お留伊はただ微笑で答えた。……自分の打つ鼓に、この老人がそんなにも大きなよろこびを感じている、そう思うとふしぎに、金沢で大師匠に褒められたよりも強い自信と、誇らしい気持が湧きあがって来た。

「いやお待ち下さいまし」

お留伊が鼓を取出そうとすると、老人は静かにそれを制しながら云った。